鼻風邪を引きながら、スパ—クでゆずさんのお手伝いをして参りました…(実際お手伝いなのか邪魔しているだけなのか分からない状況でしたが)…って、もうそれは先週の出来事なんですね。うわん…。ゆずさん、台車を貸してくださったお隣のLychee様、アフターをご一緒してくださった鷹居さん、ありがとうございました。風邪移っていたらごめんなさい…(今更…!)
昨日、借りているサーバが、データ消失とか怖いお知らせをくださったんですが、何とか無事に復旧したようで、安心しました。サイトとしてコンテンツ公開もしていないのにサーバ上にあるデータが消失したら、大方我が家は白紙状態で再起不能です。バックアップ…真剣に考えよう…。うん。復旧したデータの中に、ひとつ短編が…、八戒の誕生日に合わせて書いていたものですが、サルベージされたのを機に、こっそりここに載せてみます。誕生日を大きく外しなおかつ誕生日ネタとは言い難いものではありますが、そしてリバビリ感も否めませんが、宜しければ下記、落日。からどうぞ。
イベントの日、小説の一人称とか三人称のお話しをする機会があったんですが、よくよく自分の書き方を振り返ってみると、三人称でありながら視点は完全一人称のような気がしてきた。似非三人称…?か?うー…。
昨日、借りているサーバが、データ消失とか怖いお知らせをくださったんですが、何とか無事に復旧したようで、安心しました。サイトとしてコンテンツ公開もしていないのにサーバ上にあるデータが消失したら、大方我が家は白紙状態で再起不能です。バックアップ…真剣に考えよう…。うん。復旧したデータの中に、ひとつ短編が…、八戒の誕生日に合わせて書いていたものですが、サルベージされたのを機に、こっそりここに載せてみます。誕生日を大きく外しなおかつ誕生日ネタとは言い難いものではありますが、そしてリバビリ感も否めませんが、宜しければ下記、落日。からどうぞ。
イベントの日、小説の一人称とか三人称のお話しをする機会があったんですが、よくよく自分の書き方を振り返ってみると、三人称でありながら視点は完全一人称のような気がしてきた。似非三人称…?か?うー…。
落日。
どんなに足掻いた所で、ひとりの人間には歩くべき道はひとつしか与えられない。進む先には当て所無い広大な荒野が広がり、振り返る其処には記憶や経験という軒が犇めき合う過去という街。
「人生を旅路に例えた先人は偉大だなぁ」
その呟きは誰の耳に届く事も無く、夕暮れの風に静かに流されてゆく。
常備薬に非常食と水、そして三蔵と悟浄の煙草のカートンが無造作に突っ込まれた大きめの紙袋を抱え直して、八戒はふと立ち止まり今来た道を振り返った。ざわめく雑踏と人々の声。商店街の賑わいはこの街が生きている証でもあるのだろう。旅の途中で通り縋るだけの自分達は余所者だが、今この瞬間には確かにこの街の一部として生きている。明日の朝には寝静まった街を後にして恐らくは生涯、この街の事を思い出す事も無いだろうが、太陽が高くなるにつれ街は活気を取り戻し、旅人が去った事さえ何事も無かったかのようにまた街は素知らぬ顔で呼吸するのだ。記憶に留めないのはお互い様。
柄にもなくそんな感傷的な気分になるのは、夕暮れという刻限も関係あるかも知れない。秋という季節の所為かも知れない。一人歩きの為せる技なのかも知れない。前髪をそっと揺らす風は、逝く夏の気配がまだ微かに残る九月の半ば。秋と言うにはまだ心無しか生暖かい。
「…あ」
その生暖かい風に混じって絡み付いて来る憶えのある紫煙の銘柄が脳裏に浮かぶのと、商店街を抜けた少し先の街路樹に寄りかかって佇む人影が八戒の中でシンクロする。
「何してるんですか?」
問いかけた相手は逆光の中で煙草を揉み消し、ゆっくりと八戒に近づいて来た。
「こんな平和な時間、久々だろ?持て余しちゃって」
夕日に輪郭が溶けていた。言葉の割に笑顔に澱みのないことも分かる。長年の付き合いとはそういうものだ。
「なんて贅沢な悩み」
「…いや、悩んでるっていうか、慣れてない所為だろ。おら、荷物寄越せ」
「あ、いいですよ、大丈…」
さり気なく、少々雑ではあるけれど、押付けがましくない自然な気遣い。有無を言わさず取り上げられた紙袋を目で追いながら、八戒は言葉を引っ込めるしかなかった。それを優しさと呼ぶ事が正しいかどうか分からないが、これが優しさなら自分には無い。
「ありがとうございます」
荷物の話ではなく、悟浄という男の心根の話。
「賭け場に行ったものとばかり思ってました」
「んー、行ったけど。まぁ、ぼちぼち」
「お相手が善人だったんですね」
少し間をあけて、悟浄は笑い出した。
「図星ですか」
「おまえが相手だったら容赦しねぇのになー…」
その言葉に八戒も笑いを漏らした。並んで傾きゆく夕日を背負って歩きながら、ついさっきまで感傷的だった自分を、八戒は何処かへ置いて来た事に気付く。ああ、きっとあの街路樹の傍らに。
心地良い温度の平穏は記憶の襞や心の機微に引っ掛かりにくく、だからこそ忘却の順序も早いのが常だ。何事もなくただただ旅人に休息を齎してくれる平和な街は、暑さ寒さを愚痴零す事なくいつの間にか過ぎてゆくこの季節にも似ている。そしていつも気が付くと隣を並んで歩いているこの男にも似て…。いや、それは少し違うかもしれない。
「そうだ、八戒。さっき言い忘れてたんだけど」
ふと立ち止まって悟浄が紙袋の中から八戒へと視線を向ける。
「はい?」
「Zippoのオイル、切れてんの」
「あー、もお。そういう事は早く言ってくださいよ」
「…だよな」
確か、煙草屋は商店街の反対側の端だったような気がすると思い出しながら、八戒は小さい溜め息とも付かない息を吐いて唐突に悟浄の手を掴んだ。
「早くしないと、煙草屋のおばあちゃん、お店閉めちゃいますよ。さっき伺った時もう片付け始めてましたし」
そう言うや否や八戒は悟浄の手を引いて今歩いて来た道を走り出した。
「ちょ…っ、ぅわ…、八戒…っ?」
驚き紙袋を片手に抱え直した悟浄は、それでも八戒の手を振りほどく事もせず、走る速度を合わせて風を切る。
街路樹に置き去りにした自分の影に見向きもせず、人並みを縫うように街へと紛れ込み、薬屋、乾物屋、八百屋、食事処、見覚えのある過去の風景を逆走してゆく。巻き戻るのは風景だけ。時間も心もそうそう思うように焼き直しはきかないことは分かってる。分かってはいるけれども…。
次にこの景色を横切る時は一人じゃない。
八戒は、今日、何でもないこの日の落日を、緩やかに穏やかに片手を繋いだ男に託した。
九月二十一日。
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